<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第150章 忘れないで ― 姫&家康 ―
忘れないで、私の事を。
「記憶が…無い?」
大きな怪我を負って戻ってきた貴方は記憶を失っていた。
「俺は…誰、だ…?」
全員が絶句する中、私は貴方のお世話をする事に決めて、少しずつ貴方がどういう人か伝えてゆく。
「貴方の名前は、とくがわ、いえやす」
「とく、がわ…いえ、やす…俺の名前…」
「そう、貴方は弓が得意なの」
「弓、が、得意…」
一つずつ貴方の事を知らせてゆくけれど、私と恋仲になっていた事は、混乱させてしまうかもしれないから、今の家康には教えられない。
私は寂しさを我慢して、わさびの事も伝える。
「あの子はわさび。けがをした小鹿を貴方が保護しているの」
「わさび…」
わさびが呼ばれたと思い、家康の側に寄ってくる。
「ほら、家康に呼ばれたと思って、わさびが来たよ、撫でてあげて?」
恐る恐る手を伸ばし、ゆっくりと撫でる貴方の手に、わさびはきょとんとした顔をする。