<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第139章 仲直り ― 義元&姫 ―
寿桂尼は夫だった先代今川氏親との事を話す。
「隠れて側室を持ち、子までお持ちだったのがわかった時、本当に悔しくてなりませんでした。
今、思うと、その悔しいという感情を、氏親殿にぶつけておくべきだったと思います」
寿桂尼の言葉に無言になる舞。
「氏親殿は、私の表面しかご覧になる事はありませんでした。私は何も言わなかったから、私の心の中でどんな感情が渦巻いていたか知らなかったでしょうし、まさか私にそういう醜い感情があるなんて、思いもしていなかったと思いますよ」
「寿桂尼様…」
「でもそういう事を言う前に、氏親殿は倒れ、私が領地の仕置きについて手伝いをするようになり、氏親殿は私が思った以上に政務について理解している事を、喜んでいました。
それはつまり、氏親殿亡き後、義元殿が大きくなる迄、北川殿ではなく私が、今川の実権を握れると踏んでいたのですね」
私はそんなもの、欲しくなかったのですけどね、と、寿桂尼は微笑む。
「舞殿、けんかをするのも、強情を張るのも簡単です。でも、仲たがいしたまま、どちらかに何かあって、後悔する可能性があるなら、仲直りをしたほうが良いですよ」
「寿桂尼様…」
すると廊下を誰か歩いてくるようで、廊下が時折きゅっきゅっと鳴る。
「母上、よろしいですか?舞がこちらで倒れたと聞きました」
すらりと襖をあけ、血相を変えた義元が入ってきて、舞を見掛けて驚く。
「舞…倒れたのでは…?」
「ほほ、義元殿、二人がけんかをしたというから、仲直りのきっかけをおつくりしましたよ」