<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第130章 甘い時 ― 姫&幸村 ―
幸村はすたすたと私をまだかついだまま、隣の部屋との境のふすまを開けた。
誰が揃えたのか、趣味の良さそうな品が置かれ、更に螺鈿(らでん)細工の美しい裁縫箱も置かれていて、私はわぁ、と声をあげた。
「素敵なお部屋にお道具…ありがとう、幸村!」
「俺じゃねーよ、信玄様だ、この部屋を作ったのは。
俺はおんなが好きなものはわからないからな。
だから礼を言うなら信玄様に言うんだな」
何だか機嫌の悪そうな声で幸村は言い、その場で私を下すと、じゃーな、と片手を挙げて隣の幸村の部屋へ戻ってしまった。
襖まできっちり閉められてしまい、急に私は不安になってしまい、襖を開ける。
「ねえ、幸村、どうして機嫌悪くしたの?
私、何か悪い事、言った?」
幸村は自室で立ったままで、襖を開いた私を肩越しに振り向いて見た。
「幸村、一人にしちゃ嫌」
私はそう言って、幸村の背中に飛びついて、後ろから幸村を抱き締めた。
「…違う、舞は悪くない。
信玄様の用意した部屋をやけに気に入ったから、俺が勝手にやきもちやいただけだ」
幸村は立ったまま、恥ずかしそうに言った。
「そういうつもりで喜んだんじゃないよ?
それに幸村の隣の部屋なんだから、そっちのほうが嬉しいよ?」
「…そんな事言って後悔するなよ…」
幸村がぼそりと言って、抱き着く私を背中からはがすと、私を音もなく畳にからだを押し付けていた。