<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第94章 八重桜と闇を払う姫 ― 光秀&姫 ―
「所用が合ってここに来ざるを得なかった。俺はもう戻る」
踵を返して戻ろうとしたところ、真剣な表情の舞が俺の腕を掴んできた。
「もう、少し、一緒にお花を見てくれませんか?」
やたら真剣な表情に俺のほうが反対に内心驚き、でもたまには良いかと俺はまた振り向いて舞と桜を見る。
「それだけ真剣に頼まれたら、嫌だとは言えないな」
俺が言うと、腕を離した舞が謝る。
「すみません、でも、せっかくの八重桜を見るなら光秀さんと見たいなぁって思って…」
「…何故俺なんだ?秀吉や政宗と見れば、菓子やら茶やら支度してくるだろう?」
「だからです。こんな小さい木で、一所懸命お花を咲かせてるから、目の前で大騒ぎして木を疲れさせたくないんです」
「木が疲れる…?」
俺のいぶかしげな問いに舞は頷いて言った。
「はい、木だって生きてるんです。だからこんな小さい木の前で騒いだら、木が疲れて成長に影響が出ちゃうかもしれません」
『木は生きていて疲れる、なんて変な事を言う娘だ…』
俺は光の中を生きるこの娘に、ふと興味を持った。
この娘に手を出せば、俺の闇も少しは明るくなるのだろうか?
「舞」
俺は声を掛け、舞の顎をすくい、じっと舞を見つめた。