<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第94章 八重桜と闇を払う姫 ― 光秀&姫 ―
八重桜の咲く頃、俺は城の隅に咲くその小さい木を見つめていた。
桜の少し後に咲く八重桜。
一つ一つの花は華やかだが、安土に咲く花はまだ小さく、必死に花を咲かせていると言ったような雰囲気を持っていた。
「光秀さん、ここにいらしたのですね?」
俺は振り向いて言った。
「舞、何用だ?」
俺の振り向いた先に立つのは舞。
陽の光が直接かかり、眩しい光の中を歩く娘である事を、その笑顔から、わかる。
「こんなところに八重桜が咲いているのですね!」
近付いていた舞は、俺の隣に立つと、この八重桜の存在を初めて知ったらしく、声を上げて喜んだ。
「光秀さん、ずるいです、一人でお花見するなんて」
ちょっと頬を膨らませて言う舞は実に愛らしい。
「俺は別に花見をしていた訳ではない」
そう、俺の間諜からの調査結果を、ここで受け取る事になっていただけなのだ。
先程、その資料を受け取り、去る前にちょうど咲いていた八重桜を見ていたところ、舞が来た、というのが正解だ。