<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第86章 家を守る女人 ― 姫&家康 ―
上ずった声をあげる舞に、直虎は穏やかな笑みを浮かべる。
「奥方様はお可愛らしいかたでいらっしゃるのですね、家康様」
「ああ、ありがとう」
家康は舞が褒められた事に礼を言う。
そして舞の居る前で、二人はてきぱきと政務を片付ける。
家康の的確な指示を出す姿を初めて舞は目の当たりにし、名前を残すだけあって徳川家康はやはりすご腕の政治家なのだと実感する。
それと同時に井伊直虎も女性ながら、実務に手腕を発揮し、家康の質問に一つ一つきちんと答え、不明な対応を質問しながら領民に対する不明点を洗い出し片付けてゆく。
しばらくして二人の話しは終わり、家康は舞に声を掛けた。
「終わったよ。俺は先に戻るから、あんた直虎殿と話したいんでしょ。
お茶でも淹れてやって二人でゆっくりしなよ」
家康は立ち上がり、家臣の開けた襖から外へ出て行く。
その時、直虎が見たのは、優しい眼差しで舞を見つめた家康の瞳だった。
「家康様は舞様を本当に大切に思われているのですね」
家康が去り、舞が茶を直虎に出したところで、直虎が言った。
「え、そう見えますか?」
照れながら答える舞が愛らしいと思い、直虎はまた言う。
「ええ、そのように。ここからお立ちになる家康様のお顔が、舞様を見ていらしたのですが、私とお話しいただいた時とは別人のような表情をなさってましたよ」