• テキストサイズ

<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹

第86章 家を守る女人 ― 姫&家康 ―


「えー、そうなんだ、全然気が付かなかったな」

「それにしても家康様が、こんな可愛らしい奥方様をお持ちとは存じませんでした」

直虎は穏やかに重ねて言う。

「そういえば、どうして女性なのに、『なおとら』と男性のお名前なのですか?」

舞は疑問に思っていた事を聞いた。

直虎は自分の出自が関わっている事を説明し、ほんの少し哀しみの入り混じった笑みを浮かべた。

「井伊は、私が男になる事で、井伊の名前を残してこられたのです。そうでなかったら跡継ぎが当時おりませんでしたから、お家断絶となっていたのですよ」

現代とは違う、壮絶な家名をなぞる跡継ぎ問題に直面した井伊家。

それを守ったからこそ、井伊直虎が出現し、未来の徳川幕府を動かす者が出てくる。

「直虎様はずっと直虎様のまま、生きていかれるのですか?」

舞は、おんなの幸せを捨ててしまって良いのか、と言う思いを含ませて直虎に聞いた。

直虎はその質問の意図に気付き、ふわり、と微笑んだ。

「舞様、恐縮ですが、私は女の姿である事だけがおんなの幸せとは思いません。
私は井伊の家に産まれ、井伊の領民を守らなくてはなりません。
だから今、こうして、おとこの名前を名乗り、一般的なおんなの幸せを持てなくてもそれは当然ですし、今、領民たちが穏やかに過ごせている事が私の幸せなのです」

舞は生き様が自分とは違う、家を守る直虎に何も言えなくなり、やっと、またお目にかかれますか、と問う。

「家康様がお呼びくだされば。もしくは舞様が視察などの名目で、井伊の領地までお越しくだされば、ですね。
田舎でのんびりしたところですよ、井伊は。
よろしければお越しくださいませ」

そして、爽やかな空気を纏わせた直虎は、領地に戻って行った。

幸せ、について、舞は考える事になったが。


<終>
/ 944ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp