<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第86章 家を守る女人 ― 姫&家康 ―
尼髪だが武家の娘としての出自が垣間見える凛とした表情に、舞は寿桂尼を連想する。
『この人、なんとなく寿桂尼様に雰囲気が似てるかも…』
「井伊直虎でございます」
直虎は名乗って再度頭をずんと下げた。
「直虎殿、おもてをあげられよ」
家康が声を掛け、直虎は再度ゆっくりと顔をあげる。
「今迄の井伊家の奮闘ぶり、大儀である」
家康はゆったりとした物言いで話すが、舞はいつもの家康と全く違う家臣達への態度に、改めて家康の現在の地位の大きさにも内心驚くしかなかった。
『こんな態度にしゃべりかた…家康、今の時点で既にものすごく偉い人…?』
「恐悦至極に存じます」
直虎がしとやかに挨拶し、ちらりと舞のほうを見た。
「あ、私は舞と言います」
舞が挨拶すると、直虎は少し物腰を柔らかくしたように挨拶する。
「舞様…奥方様ですね、お初にお目にかかります、井伊直虎でございます。
本日はお目にかかれて恐悦至極に存じます」
「はっ、はい、よろしくお願いします」