<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第86章 家を守る女人 ― 姫&家康 ―
家康は、舞が口元を隠した両手をやんわり口元から離し、くすりと笑った。
「だけど、しゃべりすぎる悪い口はお仕置きだね」
「え、どうい…」
家康の顔が近付き、唇をむさぼられ、舞の言葉は途中で遮られて、やがて二人の姿は一つに溶けていった。
「ほら、行くよ」
「うー、待って、待って。心の準備がまだ出来てないよー」
直虎が駿府にやって来たので、家康は足を広間へ運ぼうとしているが、舞は緊張からかなかなか足が動かない。
「あまり待たせられないから、もう俺行くよ。あんた、後から来なよ」
家康は舞をその場に残し、一人広間へ向かった。
襖を開けると広間の下段の中央に、一人の打ち掛けを纏った人が頭を下げていた。
『本当に女性だ…』
家康は舞が言っていた事を思い出し、内心どんな興味深い事を言うのかと楽しみに思った。
家康が上座に座ると、慌てて追い掛けてきた舞の足音が聞こえてきたので、家康は姿を見せた舞に近くに来るようにと、持っていた扇子を閉じたままで手招きした。
「おもてをあげよ」
家臣が声を掛け、直虎が顔をあげ、家康と舞に顔を見せた。
<(後編)へ続く>