<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第85章 ふたたび ― 姫&義元 ―
義元と舞で寿桂尼の居る宿屋へ行った。
「母上、舞殿が参りました」
「おはいりなさい」
前と同じように義元が廊下から声を掛けると、中から寿桂尼の穏やかな声が聞こえた。
義元がすらりと襖を開けると、ほんのりと香が漂ってきた。
舞が見た部屋の中では、寿桂尼が香を焚いているところだった。
「…香、ですね…」
舞が小さく声をあげると、それを聞いた寿桂尼から誘われる。
「良いところに来ましたね、舞殿、お座りなさいな」
ごくごく小さく割った香木がほんのりと柔らかい香りを漂わせている。
「聞香(もんこう)はご存知?」
寿桂尼に聞かれた舞は、蘭奢待を聞いた時に教わった事を思い出していた。
「以前、蘭奢待(らんじゃたい)を聞いた時に、少しだけ教わりました」
「まぁ、東大寺を…!」
寿桂尼が感嘆の声をあげる。
「貴女、一体どういうお育ちなのかしら?普通は東大寺を聞く事は出来ませんよ?」
「どうと言われても…私の立場をどう説明すれば良いのか…」