<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第85章 ふたたび ― 姫&義元 ―
舞は香炉を義元へ回し、寿桂尼へ向かって軽く頭をさげた。
義元が聞き終わり、香炉を寿桂尼に戻すのを待って、舞は香木の感想を伝えた。
寿桂尼が香炉から香木をおろすと、近くに控えていた女房がひざをすすめ、残りの道具の片付けを静かに始めた。
「なかなか素直で良い感想ですね。
舞殿、私は貴女に聞きたい事がありました。
でも今日またお話しをして、貴女の事が少しわかりました。
そうですね、また私の許へ遊びに来てくれますか?」
寿桂尼は舞の向きに膝を直し、舞を正面から見て言った。
「私でよろしければまた伺います」
「ありがとう、待ってますよ」
寿桂尼の前を下がった舞を送る義元に、舞は言う。
「今日は寿桂尼様に会わせてくださってありがとうございました」
「別に礼を言われる事はしていないよ?」
「でも、またお目にかかれて嬉しかったです」
義元を見る舞の目が、何かを期待するような眼差しに変化し、義元は舞の腰をぐいと抱き寄せ、顔を近づけて言った。
「また、今日も離さないけれど、良いの?信長がきみを探すんじゃない?」
「そんな事無いです。だから私はゆかりの者なだけです…」
義元は舞の言を聞いて、退廃的に微笑んだ。
舞はこれから訪れる、二人の時を思い、心とからだをふるり、と震わせた。
<終>