<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第85章 ふたたび ― 姫&義元 ―
「ほほ…義元殿も舞殿の事をお気に召しているのに、隠していらして…」
寿桂尼は今川が没落してから、すっかり気だるい雰囲気ばかりを残す義元が気になっていた。
もしかしたら舞が義元を変えてくれるかもしれない、寿桂尼はそうとも思った。
「ああ、見付けた」
義元に声を掛けられた舞は、依頼された着物に合う反物を探しに市に来ていた。
「義元さん」
義元に会った舞はふわりと微笑み、こんにちは、と挨拶してきた。
「義元さん、ちょうど良かった。反物を選んでもらって良いですか?」
「どういう事?」
「着物を作るんですけれど、どっちの反物が良いか迷ってしまって。
義元さんに選んでもらったら確実かなって思って…どっちが良いと思いますか?」
「舞が着るの?」
気だるい雰囲気をまつらわせて義元が尋ねた。
「あ、ごめんなさい、ええと、着物を着る人はこんな感じです」
舞は義元に、着用する人の雰囲気や普段何色の着物を良く着るか、髪の毛や目の色など説明した。
すると義元は、店の反物を端から端までじっと見て、舞が迷っていた反物とは違うものを、一つ選んだ。