<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第85章 ふたたび ― 姫&義元 ―
「先日参った娘は何と申しましたか、義元殿」
寿桂尼が義元に問い、義元は答えた。
「舞の事でしょうか、母上?」
「ああ、そういうお名でしたね。もう一度あの娘に会いたいものです」
ほほ、と柔らかい笑みを浮かべた寿桂尼は、こうしているとおっとりとした尼僧だが、公家の姫として育ちながら今川の家に嫁ぎ、夫の氏親(うじちか)が倒れた後、義元が成長するまで女だてらに今川の家を守り切った女傑なのだ。
そんな寿桂尼が舞の事を気に入ったらしい。
義元は寿桂尼に聞いた。
「母上、舞のどこがお気に召したのですか?」
「義元殿にはわかりませんか?あの娘は只者ではありませんね」
「只者では、ない…?」
「ええ、普通の町娘や武家の娘ではありませんよ」
「…と申しますと…?」
義元には何が普通で無いのかわからない。
「あの娘のまとうものが普通の娘のものとは違います。
普通の町娘としては育っていないでしょう」
義元は寿桂尼が何について気付いている事がわからず、でも舞に会い次第、また連れて参ります、と言って安土城下へ出掛けた。