<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第82章 春の夜に詠う ― 姫&秀吉 ―
でも、何故か秀吉さんの表情は、覇気のある精悍なものではなかった。
「どうしたの…?」
御殿に戻ってからようやく聞いてみるけれど、秀吉さんはちょっと困ったような笑みを浮かべただけで無言だった、から、私は両手で秀吉さんの頬をはさみ、じっと見つめて言ったの。
「無事に終わったのに、どうして気乗りしない表情しているの?
誰もケガをしていないし、もっと嬉しそうにして良いものじゃないの?」
参ったな、と秀吉さんは苦笑いし、頬をはさんだ私の両手を反対に自分の両手で包みこみ、ようやく浮かない理由を言ってくれた。
「調停はもともとそんなにおおごとなものでなかったから、簡単に解決出来たんだ。
でも片方の大名の家臣が詫びると言って、しなくてもいい腹を斬った」
「それって切腹…」
私はこくりと喉を鳴らした。
「ああ、それをされたら、もう反対側からも一人腹を斬らせないとならなくてな。
死者を出したくなかったのだが、斬った側の大名を納得させる為に、反対側の大名の中からも一人腹を斬らせた。俺が浮かぬ顔をしてるのはそういう事なんだ」
「そうなんだ…それは後味の悪い終わり方だね」
「死者が出るのは戦の時は仕方ねぇ。
でもしなくていい切腹されると、正直堪えるんだよな」
私はどうして良いかわからず、そのまま秀吉さんをぎゅっと抱き締めた。
「舞…」
「私にはこれくらいしか出来ないから…」
「ああ、一番嬉しいよ」