<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第82章 春の夜に詠う ― 姫&秀吉 ―
そう言って秀吉さんは私の事もぎゅっと抱き締めてくれた。
「…一人寝は俺の御殿に来てからは初めてだったな」
「うん、寂しかったよ」
「そうか…俺も舞が隣に居なくて寂しかったさ」
「春の夜の」
「なんだ?」
「夢ばかりなる、手枕に」
私は百人一首を口に上らせた。
「かひなくたたむ、名こそ惜しけれ」
「それは藤原定家が選んだ百首の歌だよな」
秀吉さんはさすが歌の事もよく知っているな。
「うん、そう。春の短い夜の戯れ。
貴方の腕を枕にして寝たら、貴方との浮き名がたってしまうわ、って言ってるんだよ」
「俺とは浮き名なのか?」
秀吉さんはちょっと仏頂面になって言うので、私はふふ、と笑ってしまった。
「そうじゃないよ、私は秀吉さんが大好き。戻ってきてくれてありがとう」
少し調子を戻してくれた秀吉さんに、私から口付けすると、秀吉さんも私の後頭部を押さえて深い口付けを返してくれた。
春の夜の短い夢かもしれないけれど、大好きな貴方となら浮き名はたって良いんだ。
秀吉さん、私は貴方の腕を枕にして。
貴方の夢に揺蕩う浮舟になりましょう。
戯れでなく、愛する秀吉さんと流れましょうか。
<終>