<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第80章 今川 ― 姫&義元 ―
ついていった先は、安土でも大きな宿屋だった。
宿の人に挨拶された義元さんはああ、と挨拶し返し、私を宿のすぐ手前の部屋に一度座らせた。
「母上に話してくるから、ここで待っていて」
「は、はい…」
寿桂尼様はどんな人なんだろう、まさか戦国武将どころかその有名な母親にまで会える事になるとは思わなかったな…
そんな事を思いながら待っていたら、すぐ義元さんは戻ってきてくれた。
「おいで、母上のところに案内しよう」
「ありがとうございます…」
義元さんについて、宿の奥の部屋へ歩んでゆき、最奥の部屋で義元さんは立ち止まり、廊下に座り、声を掛けた。
「母上、入ってもようございますか?」
「おはいりなさい」
年配の女性の声がし、義元さんはその場ですらりと襖を開いた。
「母上、先程お話しした舞殿です」
義元さんに部屋に入るよう促され、部屋に一歩足を踏み入れ、寿桂尼様の姿を見た。
尼姿の女性が上座に座っており、その姿は優美でいながら凛としたものを纏い、公家の姫であった頃と、戦国武将の妻として過ごしてきた壮絶な人生を感じさせる姿だった。