<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第80章 今川 ― 姫&義元 ―
義元さんの後を付いて歩いていくと、そこは春さんと富弥さんが作るお団子や羊羹が評判の茶屋だった。
「ここの羊羹、食べた事ある?絶品だって信玄が言ってたんだよね」
義元さんはさっさと座り、春さんに羊羹をお茶を二人分注文した。
おとこの人っぽくない美貌の義元さんの相手が私だと知ると、春さんはちょっと目を見開いたけれど、そつなく注文を受け羊羹とお茶を運んできてくれた。
「さ、食べなよ」
「…いただきます」
とりあえず義元さんの隣に座り、城下一と評判になった羊羹をいただく。
葉月さんが考案したあんず入りの羊羹は、いつも通り美味しく私の喉を通過した。
「…美味しい…!」
私の美味しいものを食べて微笑む姿を見て、義元さんも満足そうにしていた。
「それで、聞きたい事ってなに?」
羊羹を食べ終わった頃に、もともとの用事であった質問を聞かれた。
「あの、義元さん、今川のかたなんですよね?
配下の人達が徳川家康さんを狙っているって本当なんですか?
本当ならどうして家康さんを狙うんですか?」
私の質問に、義元さんは気だるげな表情を少し改めたように見えた。
「徳川家康…ああ、松平の竹千代の事か…その子なら俺の母上、寿桂尼(じゅけいに)が預かった人質だね。
彼が不幸だったって思う?
俺が知っている限りでは、人質としては最大限に良い待遇だったと思うよ」