<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第80章 今川 ― 姫&義元 ―
今川の残党って聞こえたけれど、まさか、義元さんの配下だった人達の事…?
家康を捉えて痛めつけた一味が捕まったけれど、今川の残党と光秀さんが言っていた。
まさか、あの、義元さんが指図をして、家康を捉えたの…?
義元さんの気だるげな美しい表情を思い出し、あの人がそんな事をするとは思えず、私は本当の事を知りたくて、城下へ足を運んだ。
「会えるかな…」
うろうろ市をやみくもに歩いて義元さんを探す。
今日ここに居るとは限らないとわかっているけれど、私はどうしても聞きたいよ。
「義元さん…」
知らず知らずのうちに口の端に名前を上らせていたらしく、私の肩をぽんと叩く人がいた。
私が驚いて足を止め振り返ると、そこには周囲が思わず避けてしまうような凄絶な色気をまとった義元さんが、気だるげないつもの表情のまま、私を見つめていた。
「…俺の事、呼んだでしょ?何の用?」
片手に持った扇をぱらりと開いて、自分の顔を隠すようにし、艶めいた瞳だけをこちらに向け義元さんは聞いてきた。
「…お聞きしたい事があるんです…」
私はごくりと唾を飲みこんで、義元さんに問う。
「ふぅん、ここじゃなんだから羊羹でも食べようか」