<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第50章 心を溶かす ― 姫&謙信 ―
鷹狩をなさらない故、増えたとおっしゃる謙信様の姿は、うさぎとは似ても似つかない、でもとても慈愛に満ちた表情をしていらした。
うさぎに見せる優しい姿に、ちょっと私は妬けてしまうけれど、まだその心は謙信様には伝わっていない。
「おいで」
私が声を掛けると、数羽のうさぎが素直にぴょんぴょんと来てくれた。
膝に抱き留めると小さな温かみと重さを感じる。
「…可愛い…!」
嬉しくなってうさぎにそっと触れ、柔らかく撫でる。
謙信様にもたくさんのうさぎがぴょんぴょんと近寄り、ほとんどが謙信様のからだにくっつこうとしていた。
「謙信様、うさぎに愛されてますね」
つい言ってしまった一言に、謙信様はつまらなさそうに言い返された。
「うさぎだけに愛されてもしようがないだろう」
「では、私も謙信様を愛します」
私の一言に動きを止める謙信様。
静寂が二人を包み、うさぎがどこか遠くへ行ってしまったような感覚を得る。
「…愚かな。俺を愛しても何も残らぬ」
謙信様の冷たい表情に、少し赤味がさしたように思えたのは気のせい?
「残りますよ。謙信様には残らなくても私の心には、謙信様を愛したという事実が残ります」