第7章 『謳歌』 ※R‐18
ーーー明け方ーーー
パタン、と襖を閉め幸村の部屋から出た寝衣姿の桜子は辺りをキョロキョロ見回す。
(……よし、人影は無し……)
忍び足で壁づたいを歩く
そう、気恥ずかしさから一緒に寝泊まりしている事を隠して生活しているのだ。
初夜以降は必死に声も抑えて徹底している。
なんせたった襖一枚で仕切られているだけの防音設備もへったくれもない環境だ。
もし聞かれたら恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。
この時間は女中達が朝の準備であちこち行き交っている
用心せねば……
壁から壁へと小走りで移動し、曲り角から向こう側を覗く
誰も居ない。
(今だっ!)
大きく一歩を踏み出そうとした、その時。
「天女?」
片足を上げたままギクリとする
静かに振り返ると、一番見つかりたくない相手がそこに立っていた
「し…信玄様……おはようございます……」
表情筋が引きつる。
「おはよう、天女。もう終わったのかい?」
「はい、滞りなく……」
(……って、……“終わった”……?
……………………!!!)
にこにこと眩しい笑顔の信玄様。
私は天を仰いで目を覆った
お忍びラブラブライフ四日目。
遂に、バレた
「久々に戻ってきたけど、随分賑かだね。何かあった?」
その日の夕方、安土から帰還した佐助に問われて私は慌てて取り繕う羽目に陥った
「あのっ、幸の誕生会!今日誕生日だからさ。はは……」
表向きはそう銘打った宴が盛大に繰り広げられていた
信玄様はご満悦そうに喋ってるし、
謙信様に至っては縁側で一人酒してる。
親切に赤飯まで炊かれ、
膳に置かれている始末だ。
隣に座る幸村がジト目をこちらに送る
「お前何しくじってんだよ」
「しょーがないでしょっ!…はぁ、でもまさかこんなにイジられるなんて……」
甘い時間とドタバタ劇が混在する恋人生活。
まぁ私達らしいっちゃ、らしいかもしれない。