第26章 『気配』
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丁度、その同刻。
もう一方の部屋では、額に掌を当てて煙管を吹かす秀吉の姿ーーー。
「痛ってぇ……」
完全に飲み過ぎてしまった、と。
二日酔いの頭痛に苛まれながら、後悔と反省を繰り返していた。
昨夜の失態について、まずは頭を下げに天主へ行かなければ……
そう考えていた時。
声掛けもなく室内に踏み込んできた蓮は持っていた盆を文机に置くと、気怠げに座り頬杖をついた。
振動が伝わって小さく波打つ、湯呑の中の茶。
そこからはまだ温かな湯気がのぼっている。ーーー
「私にも一服させて」
「またかよお前は…身体に悪いぞ。
…ん?その茶、政宗に持っていったんじゃないのか?」
「部屋覗いたら先客が居てさ。
……お邪魔みたいだから引き返してきた。
ねぇ、それよりも早く煙管貸してよ」
「……。
……ああ」
どんなに言い訳しても、取り繕っても。
腹の底で蓋をしているはずのものが時折顔を出す。
頑丈なようでいて脆い蓋が少しずつ開き始める気配を、それぞれが感じていた。