第3章 『面影』
「おい、佐助」
突然背後から声をかけられる。
「気配消して近寄るのやめて下さい謙信様。恐いです
」
「そんな事はどうでもいい。………それよりあの小娘……先程のやかましい自分語りの際、特技が剣道と言っていたが、剣術の事か?」
「はい。えーと、剣術や体術、踊りが得意。との事です」
「ほう…………」
ニヤリと片側の口角を吊り上げると鞘から刀を抜き、桜子へ向けた。
「小娘、俺と手合わせしろ」
「謙信様!?」
「おい、何言ってんだよ謙信様」
佐助と幸村が止めに入る中、桜子はジロリと目玉を謙信の方へ向けていた。
「謙信様、相手は女性です。いくら彼女が剣術の経験者だとしても……無茶です!」
「……………………」
「信玄様も止めてやれよ!あの女、死ぬぞ」
「……………………」
腕を組んだまま何も言わない信玄の肩に幸村が掴み掛かろうとした時
「いいですよ。」
真顔で言い放つ桜子に度肝を抜かれた。
「は…………あ!?」
「桜子さん、やめるんだ!」
「いや、やるよ。戦国武将と手合わせが出来るなんて………こんな光栄な事はないからね。ただし、刀じゃなくて、竹刀か木刀でお願いします」
「怖じ気づいたか」
謙信が刀を向けたまま鼻で笑うと、桜子も真似するかのように同じく鼻で笑ってみせた。
「いいえ。もし刀でやり合って武将にもしもの事があったら大変でしょう?私なりの思いやりです」
「……………よく言った。度胸だけは誉めてやろう」
まさに一触即発。
この空気の中に一太刀入れるように声が響いた。
「俺が代わる」