第6章 『心得』
「……………あーもー、大袈裟なんだよ」
「駄目!!」
ーーーーー幸村の自室。
佐助から“幸が左腕を負傷した”と聞いた桜子は、自分でなんとかすると言い張る幸村に無理矢理手当てを施していた。
「こんな浅い傷なんかどーでも良いからお前はとりあえず飯を食え!やつれてんじゃねーか」
「いいから大人しくてて!」
袖をまくり上げ血の滲んだ包帯を外し、腕の傷を水で清めていく。
空手での経験上、打撲や捻挫などの応急手当はできるのだが切り傷は初めてなので佳世に手順を教えて貰った
「…………ねぇ」
桶に入れた水で手拭いを絞る
「あ?」
「死ぬのは、怖くないの?」
「……………………」
軟膏を塗り、新しい包帯を巻いていく
「……………全く怖くない、と言えば嘘になるかもな。けど………」
側に置かれた甲冑に描かれた家紋を軽く小突く
「これを背負ってる限り誇りを持って散る覚悟は出来てる。………だから死んでも悔いの無い生き方をするって決めてんだ」
六文銭ーーーーーーーー
真田家が家紋を六文銭にした由来は三途の川の言い伝えにあるという
三途の川には船があり、船賃として六文払えば無事あの世へ渡れるといわれ、
いつ命を落としても大丈夫なように六文銭を常に身に付け戦いに挑むのだと。
前に、幸が熱心に語っていた。
団子片手に呑気に聞いていた私にはそこまで懸けられるものが今まであっただろうか。
就きたい仕事や将来の目標も無く適当に大学に通い、ただ自由に趣味や遊びに明け暮れる日々だった。
包帯の端を縛り終えると袖をするすると下ろした
「…………幸」
そんな自分がもし願う事があるとすれば
「何」
こうして隣で見守って
「傷が治ったら…………また手合わせしたり一緒に出掛けたり………してもいい、かな………」
この人の心意気と人生に懸けてみたいーーーーーーーー
「…………おー」
光太郎、私は、再び道を拓くよ。
この時の決断は、のちに惨劇を生む事になる
今思えば私の人生最大の分岐点だった。