第6章 『心得』
野営をしつつ、ひたすら道を歩きやがて見慣れた城が見え……………
大手門の柱に立つ着物姿の女。
ふわりとした栗色の長い髪が風に乗って揺れている。
遠くからでも、誰だか分かる
進むにつれだんだん距離が縮まっていくとそいつは駆け出して、
大粒の涙をこぼしながら 馬から降りた俺の胸に飛び込んできた
「無事でよがっ……よがっだぁぁぁ………」
わんわんと泣きじゃくりしがみ付く手首は以前より細くなっていた
幸村がそっと背中に腕を回そうとした時、周囲の注目が集まってる事に気付き一気に顔が熱くなった
「あ……あのよ、一応御館様達も無事だから……その………」
「え!?……あ、信玄様!謙信様!佐助も………良かった………!」
武将達の方へ走り寄ると信玄が出立の朝と同じように桜子の頭にぽんと手を置いた
「ただいま、天女」
「小娘、その弱々しい痩躯を直ちに元に戻せ。鍛練はそれからだ」
遠回しな謙信様の優しさと、信玄様の手の温かさに胸がジンとする。
(皆、帰ってきた。帰ってきたんだ………)
「桜子さん」
ふわりと馬から降り立った佐助が桜子の耳元に小声で告げる
「…………え…………」
ぐるんと勢い良く幸村に顔を向けると、右腕を捕らえ城へ急ぎ足で連れていく。
「なんだよいきなり!」
「いいから早く来て!!」
大声で言い合いながら遠ざかっていく二人を、信玄は目を細め眺めていた