第6章 『心得』
宗雲本陣ーーーーーー
「あの男………あれでも頭か!攻め返され自決なんてしおってからに………手薄の織田陣営であのザマだ。とんだ食わせ者だったな」
持っていた扇子をへし折ると地面に投げつけ足の裏で踏み潰した宗雲に、侍従が腰を低くし酌をする。
「ですが宗雲様、彼奴には強力な腹心がおります。その実力は頭を陵駕するとも………。明日は死物狂いで仇討ちに勤しんでくれるでしょう」
「くく……そうだな。あの戦いぶりは、」
「そいつはどうかな」
宗雲の言葉を低い声が遮る
肩をすくませ首をそちらに回すと、天幕の角で胡座をかいたまま腕組みをする一人の黒装束がいた。
「……お前、い…いつの間に………見張りはどうした……」
状況を察した侍従がクイ、と顎で合図すると傍にいた兵が天幕の外へ出ようとした。その時。
「ぎゃ…………」
装束の男から放たれた小刀が兵のこめかみに突き刺さり、身体が横に倒れた
「何をす…………がっ……」
鞘から刀を抜こうとした侍従の首を両手で捻り回すと、物のように投げ捨て宗雲の前に立ちはだかる。
覆われた頭巾の布の間から目玉が見下ろしていた
「織田陣営へは宗雲、お前が行く手筈だったろう。何故お頭を出した」
「あ……あれは奴が自分の意志で名乗り出たんだ!わしは何も……」
冷や汗をかく宗雲の顔面を手で掴み指に力を入れるとミシミシと頬骨が軋む
「そんな嘘が通じると思うか。頭は病を患ってから現場では指揮のみに徹してきたんだ。…………お前がなんらかの方法で焚き付けたんだろ」
「……………っ…………わしを殺したとてその後はどうする……大勢の部下を掌握でもする気か…………」
「部下?どこに居るんだそんなもん」
外で燃える焚き火の明かりに照らされ、ぞろぞろと集まる人影が天幕の中から見える
宗雲の兵とは違う、蜘蛛達のーーーーーー。
「ま……さか」
「皆殺しだ」
顔を掴んでいた手を下にずらし口の中に刀を突き刺すと、
噴射した血が辺りに飛び散った
返り血を浴び出入り口に歩き出した男は、言い忘れたかのように振り返り、もう意識が無い宗雲に話しかけた
「生前叔父貴が残した遺言通り、今日から俺がお頭だ」
世が更け、陣地一帯にはいつのまにか静けさが訪れていた