第6章 『心得』
「………………!!」
寸前で身を捩ると、すかさず相手の隙を突こうと槍を振り翳すが素早い動きで止められた
「幸村、何をもたついている。俺が代わりに遊んでやろう」
後方から駆ける謙信に装束の男はピクリと気付くと、合わせていた槍を刀で捌き横をすり抜けて行った。
信玄や佐助も各々に戦っている。
そんな中、左腕を押さえた幸村は歯をギリっと噛んだ
「…………………」
完全には避けられなかった。
深手ではないが、血が滲み痛みが走る。
疲労していたとはいえ、傷を許してしまった事に悔しさが募る
「あの野郎…………」
腕から手を離し尚も掛かってくる他の兵を薙ぎ倒していると、普通よりも小さな体躯の装束兵が遠方から勢いよく接近し、背負った筒から矢を出し謙信に向かって射ったのが見えた
「!」
幸村に傷を負わせた装束兵と対峙していた謙信は相手を力で押し返し、矢を刃で打ち落とした。
その間に、押し返された流れに乗って、頭巾の端を翻し謙信の前から離れ、弓を矢筒にしまう兵の元へ進み寄る
「………どうした」
「叔父貴が、自決した。織田の陣営付近だ」
報告を聞くと、目を潜めた。
天を仰ぎ高らかに抑揚をつけた指笛を鳴らす
「……………………一旦、退く」
頷いた兵は火打ち石を擦ると、懐に隠し持った爆竹に火をつけ放り投げると共に走り去る
あちこちで指笛の呼応と破裂音が入り乱れた。
「おい!足元に気を付けろ!!」
「奴等、撤退していくぞーーーーー!」
足軽達の叫びが飛び交い、馬がいななく。
「小癪な真似を………」
追随しようとする謙信の前方に信玄が現れ制止する
「もう日が落ちかけてる。これ以上暗くなれば同士討ちの恐れがある………俺達も退こうじゃないか」
大量の爆竹と漂う煙を残し、黒装束の一団は蜘蛛の子を散らすように銘々に姿を消した
程なくして宗雲の軍勢も退き、織田、上杉・武田勢も陣営に戻ってゆく。
一進一退の攻防が続いたこの戦。
必ずや勝利を掴み取ってみせる。
そう明日の日ノ出の待つ双方だった、のだが。