第6章 『心得』
夜が明け、出立の朝ーーーーーーーーーーー
(酷い顔…………)
以前貰った手鏡を覗くと腫れ上がった瞼とクマを備えた自分が映る。
あれから一睡も出来なかった。
城の大手門には大勢の兵達が整列しており、桜子は城に残る家臣等と共に外へと出ていた
はためいた軍旗が、ああ本当に行ってしまうんだと切なくさせる。
「………怪談話にでも出てきそうな風貌だな。帰ってくるまでに治しておけ」
「折角の美しい顔がもったいないぞ、天女。……気をしっかり持つんだ」
「謙信様………信玄様………」
二人に挨拶をしようとしたのだが、逆に励まされてしまった。
…………心配してくれているのだ
距離を置いた向こうには、幸が家臣と話す姿がある。
「……………………………」
「応援の言葉でも掛けておいで」
そう桜子の頭にポンと手を乗せる信玄を見上げると、優しく微笑していた。
「…………はい」
すり抜けて駆け出す。
応援ーーーーーーーーーーー
“頑張ってね”
“勝つといいね”
そんなんじゃなくて。
「幸っ!!」
武具に覆われた腕を捕まえると、驚いたように目を丸くしていた
「…………………死なないで」
「おま……」
「生きて、戻ってきて」
掴んだままの私の手の上から力強く幸の掌が重ねられた
「………約束する。必ず」
手が離れると、騎乗し謙信様や信玄様と隊列の前まで行き兵と鬨をあげーーーーーーーーーー
遂に、出陣していった
どうか無事に帰ってきて……………
一行が見えなくなるまで目を逸らす事は無かった