第6章 『心得』
「…………そんな事が…………」
全て聞き終えると佐助は小さく丸まる桜子に、普段の騒がしさとは反対の陰の部分を感じていた。
「その彼と似てるから気になってるだけなんじゃないの?」
「途中までは……そうだったかもしれない…………正直………。でも、接してくうちに段々それだけじゃなくなってきた気がして………見た目は似てるけど性格や考え方は全然違うし………だから、その…………」
「その割には随分振り回してるんだね。」
「え…………」
一緒になって屈んで話を聞いてくれていた佐助が腰を上げた。
「そ…、それは光太郎に悪いし………やめた方がいいかなって………」
「そうか。なら、ずっと彼を引きずって生きるしかないね。ここに居ても辛いだけなら安土へ行こう。戦が終わったら送るよ。謙信様に報告してくる」
「…………待って!」
屋敷に歩き出す佐助に追いすがるが足を止めようとはしてくれない。
「それが一番いいよ。所詮、桜子さんにとって幸は二の次なんだから」
「違う!!!」
ありったけの大声で叫ぶと膝を着き泣き崩れた
そっ、とその背中に手が添えられる
「………もう全部解ってるんじゃないの?口では離れた方がいいなんて言ってるけど」
優しい口調になった言葉が染み渡る。
「キツい事ばかり言ってごめん…………俺にとって幸は大事な友達なんだ。幸には黙っておくから、決心がついたら自分から伝えてやってくれないか」
嗚咽のせいで、ありがとう、と声にならなくて首を縦に振るしかない私の背中を佐助はずっとさすってくれていた。
一度封印したはずなのに
なんてこうも意志が脆いんだろう
幸が死ぬかもしれない、と思ったら居ても経ってもいられなくなる
光太郎、あなたは許してくれますか