第6章 『心得』
「…………今は駄目だ」
「分かって、います」
信玄に諭され脚の上で力強く握られた幸村の拳が“追い掛けたい”と言っているようで、佐助はその場に立ち上がった。
「幸、俺が行ってくるよ」
「……………頼む」
庭の奥。
桜子はいくつも生えそびえるうちの一本の木に背を付けると、滑り落ちしゃがみ込んだ
足元に茂る草にポタ、ポタ、と落涙する度に葉が揺れる。
「ーーーーー桜子さん」
誰か知っていたが俯いたまま流れる涙を止めようと必死だった
「こっちに来てから初めての戦だから無理もないと思うけど…………皆、」
「皆おかしいよ!なんであんな風に居られるの!?死ぬかもしれないのに…………っ……………幸だって……もし幸に何かあったら、私…………」
「どうして幸だけの話になるの?」
佐助の低い問いに肩がビクッと震える
「幸のこと突き放したり気にしてみたり…………桜子さん、君は一体何がしたいの」
止めようとしていた涙が更に溢れ出る
そうだよ。
その通りだよ。
私は何がしたいの
少しずつ、ゆっくりと絞り出した声で語り始めた
洗いざらい過去の事をーーーーーーーーーーー
頼れる友人達は今ここにはいない。
佐助だけだったから