第26章 『気配』
が、それは一瞬のことで。
瞬きをした直後には、奴はすでに普段の表情に戻っていた。
睨まれたような気がしたけど、見間違い……だったかな。
「おい蓮、追加の料理作るの手伝え」
「え〜?飲み比べ対決の最中なんだけど」
「どうせまた引き分けだろ。ほら、早く来いよ」
「あ、ちょっと…」
手首を掴まれ、強引に広間から連れ出されていき……
「政宗!お前にも言いたい事は山ほどあるんだー!」なんて、やいやい叫ぶ秀吉の声が背後に聞こえた。
「なんなのもう…補助なら女中に頼めばいいじゃん」
「……」
「だいたい献立で決めた料理はもう全部出してるのに、追加って…何を作るつもり?」
「……」
「は?無視?」
問い掛けにも反応せず黙々と廊下を突き進んでいく伊達の様子に違和感を覚えた、その時。
厨に着いた途端、作業台に押し倒されて……
「んっ…」
唐突なキス。
食むように、荒々しく求めてくるーーー
特に驚きはしない。こうなったら目的はひとつだろうから。
「…ああ、そういうことね。
したいんでしょ?いいよ」
「ーーー…」
いつもの事だ、そう思い背中に腕を回すと
ピタリと伊達の動きが止まって。
おもむろに私から離れ、何事も無かったかのように食料庫を漁り始めた。
「…どうしたっていうの、急に」
「んー?あまりにもお前が小煩いんでな、口を封じてやっただけだ。
それよりも一緒に考えろよ、余った食材でどれだけ美味いもんが作れるのか」
表情と声音はやっぱり普段通りで、さっきの違和感は気のせいだったようだ。
まあ元々突拍子もない行動が多い男だしな、と納得した私はさっそく食材を手に取りあれこれとメニューを思案していた。
「…ったく、
照月かよ、俺は……」
だから、そんな小さな呟きなんてまるで耳に入ってなかったんだ。