第26章 『気配』
「信長様ぁぁぁ〜〜〜!」
なにやら裏返り気味の雄叫びを発し、
織田の腕にしがみつくや否や……
「飲み比べは身体に悪いのでよしてください、と何度も申し上げているのに…
俺がこんなにも…こんなにも心配しているのに…
どうして言う事をきいてくれないんですかぁぁぁっ」
「……猿。だいぶ飲んだな貴様」
「金平糖の件だってそうだ!甘いものの摂り過ぎはよくないと口酸っぱく注意しても全く聞いてくれやしない……
迷惑なんですか?そんなに俺が迷惑なんですか信長様ぁ〜〜〜っ!」
「………」
しがみついた腕に顔を突っ伏し、日頃の憤りを嘆きながらおいおいと泣き始めて。
流石の織田も困っているような、呆れているような…為す術なく無言で酒を飲んでいた。
秀吉にこんな一面があったとは……
面白いにも程がある。
「彼奴は酔うといつもああやって延々と語り続ける。
茶々でも入れてやれ、蓮」
密やかに耳打ちしてきた明智は愉しそうに笑みを浮かべていて、
悪戯心を刺激された私は標的に向かってにじり寄っていく。
織田と共謀してくすぐり攻撃でも仕掛けてやろうか、とーーーそんなふざけたことを企てていたのだが。
何かを察知したように秀吉がふっと顔を上げて。
据わった目でこちらを凝視し、次の瞬間……
大きく両手を広げ、私を抱き寄せた。
「なっ!?なんなのっ…」
突き放そうとしても、逃すまいとばかりにガッチリ固められていて身動きができない。
突然の予期せぬ行動に驚いていると……
「お前もだ蓮。俺の言うことを聞かずに危なっかしい真似ばかりしやがって…
心配させんじゃねぇ」
耳元に囁かれる、掠れた声。
慈しむような優しい手つきで髪を撫でられ…
悪戯計画はどこへやら、何故だか抵抗力を失った私はそのままじっと話に聞き入ってしまって。
そうしていると、数分も経たぬうちに
背後から肩を力強く掴まれる感触があってーーー
振り返ってみれば、眉を顰めた伊達が私達を見下ろしていた。