第26章 『気配』
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強くぶつかる、互いの鋭い眼光……
向かい合わせになり静かに火花を散らす二人の周りでは、あちこちから期待の声が飛び交う。
意地とプライドを懸けた白熱の戦いが今、始まろうとしていた。
「……覚悟はいい?織田。
今日こそ叩き潰してやる」
「臨むところだ。……来い」
安土城の大広間で行われているのは、
戦にて勝利を収めた祝いの宴。
信長と蓮は、阿吽の呼吸で盃を手に取りーーー
飲み比べ対決の火蓋が切って落とされた。
「いいぞー!いけっ」
景気良く口笛を鳴らす伊達、それに煽られて盛り上がる家臣達、
「信長様っ、蓮様ぁぁ〜!どちらも頑張ってぇぇぇっ」
開いている襖の際に集まりきゃあきゃあと黄色い声援を送ってくる女中達、
そして、
「信長様とあんたの妹、なんだか知らないけどまた争ってるよ。恒例にするつもりなんじゃないのアレ」
「やめるよう一応説得したんだけど、ね……」
徳川に問われ苦笑いを浮かべる姉貴を尻目に、ぐっと盃を呷った私は。
前回うやむやになってしまった勝負にケリをつける為、
余裕綽々の織田を無言で凝視しながら負けじと酒を流し込んでいた。
ーーー見てろよ、今度こそ負かす。
無様に酔い潰れた姿を皆の前で曝し、大恥かかせてやるんだから。
「ふ、企みがくっきりと顔に表れているぞ。
まったく女だてらに好戦的な奴よ。戦の時もそうだった」
「……。
どうしてあの時、私と伊達を野放しにした?大将としては止めるべきだったんじゃないの」
「言っただろう。心意気を受け取った、と」
「魔王が感情にほだされるとはねぇ…
そんな甘ちゃんじゃ天下統一なんて無理。諦めたら」
鋭利なナイフで一突きするような嫌味をかましてやったというのに。
途端、織田は盛大に笑い声を上げた。