第26章 『気配』
「おう来たか。入れ」
城を出たあと訪れたのは、
伊達が居住している御殿。
室内へ入ると、奴は香を焚いている最中で。
手の平に乗せていた香炉を敷物の上に置き、自分の傍に来るよう促してきた。
「包帯巻くから、腕出して」
「ああ、頼む」
着物と襦袢の衿合わせをぐっと緩め、上半身の片側を露わにする。
古い包帯を解けば、鍛え抜かれた逞しい腕に痛々しい傷痕ーーー。
薬箱から換えの包帯を取り出し、肌に沿ってぐるりと巻き付けていく。
「秀吉からだいぶ咎められんだってね、あんたも」
「まぁな。
あんた も、……って、お前もか」
「そう、私もさっきまで説教されててさ。長かった〜」
「ははっ、状況が目に浮かぶ」
戦が終わってから数日間、怪我による影響で発熱に苛まれたようだが、今は安定していて少しずつではあるが快方へ向かっている。
こうして毎日手当をしているのは、あの時なんとしてでも止めるべきだったのに煽ってしまった罪滅ぼしといったところだ。
深い意味は……無い。
「ーーーさて、処置も済んだ事だし……
ここに来たついでに、筆貸してもらおうかな。確か性能の良い代物いくつか持ってたよね」
「構わないが……誰かへ文でも書くのか?」
「そう。怪文書の返事をね」
帯に挟んでいた大量の紙を抜き取り、ずらっと畳に並べる。
なんとこれら全て、女中達からの恋文だ。
戦での振る舞いが城内にも知れ渡り、勝手に崇められ、ますます熱気を高めた追っかけの女達が群がって文を押し付けてきた。
まったく、私は女だってのに……
これを怪文書と言わずして何と言う。