第25章 『美学』
それから一夜明けてーーー
いざ再戦、と奮い立っていたのも束の間。
静まり返った相手方の陣営には多くの兵達の死体が転がっていて、大将までもが無惨な姿で発見された。
そして忽然と消えた黒装束の一団……
理由は定かではないが、おそらく奴等の仕業だというのは明らかだった。
「飼い犬に手を噛まれるどころか息の根を止められおって。哀れな末路よ」
そう呟いた織田の心境は、
敵将への失望か、己の手で討ち取る事が叶わなかった憤りなのか……
実質こちらの勝利となったが、
不完全燃焼のまま戦いは幕を閉じた。
その後、
装束兵の行方を探るべく明智は家臣を引き連れ離脱し、残りの者は撤退の準備を始めた。
さぞ口惜しんでいるのかと思いきや、皆どことなくホッと安堵しているように見える。
これ以上死傷者を増やさずに済んで良かったというのが本音なのかもしれないーーー。
おまけに、驚くべき事実が発覚。
「あんたが奴等を?…それって何かの冗談?」
「冗談じゃないよぉ〜。
あの人達、私の邪魔するんだもん。お仕置きだよっ。せぇーっかく楽しく応援してたのにさぁ……」
荷物をまとめながらそう愚痴る小梅の膨れっ面は、頬が丸みを帯びてますます幼く見える。
明智の証言によればーーー
昨日の交戦中、兵糧や武器を保管してある陣屋を狙って一部の敵兵が奇襲を仕掛けてきたようで。
突然の事態に織田軍の兵達は混乱しつつも応戦したそうだが、指揮を執ったのはなんと……
その場に居合わせた小梅らしい。
しかも、敵兵を率いていた頭領を自ら打ち負かしたというのだ。
どんな手を使ったのか……恐ろしい女め。
様々な思いが交錯した怒涛の二日間。
あくせくと後始末が進められる中ーーー
上杉・武田軍の陣営へ挨拶がてら赴き、
あのインテリ……猿飛佐助にワームホールや桜子の情報を聞き出した後。
互いの軍が放った撤退の合図と共に、
私達は戦場から引き上げた。