第25章 『美学』
剣術はそれなりに自信あるけれど、数年のブランクがある為に当時よりも多少腕が鈍ってしまってるようで。
農民などの素人剣法とは違い、
常日頃から刀を扱い慣れた玄人ーーーしかも上級レベルの熟練者であろうこの装束兵達との力量の差は否めない。
さてどうする、自分。
大口叩いて参戦した癖に、無様な醜態を曝すつもり?
……いや、醜態どころじゃない。
最悪の場合、“死”だ。
ネックレスにぶら下がった御守をぐっと握り締めれば、城に残してきた姉の顔が鮮明に浮かんでくる。
私はここへ死にに来たんじゃない。死んでたまるか。
そうやって、あれこれと募らせていると……
「堪えたか」
頬にふわりと添えられる温かい感触。
武骨な指が撫でるように血を拭う。
気がつけば、対峙していた敵兵は私の背後から放たれた一撃によって斬り伏せられていて……
おもむろに振り返れば、濁りの無い清爽な瞳がこちらを覗き込んでいた。
その向こう側に見える空の色と同じ、鮮やかな青ーーー
「……別にどうって事ない」
「いい加減強がるな。守ってやるから安心しろ」
「誰が強がってるって?みくびらないでって言ったでしょ。それに守ってもらうほど困っちゃいない。鳥肌が立つ台詞はやめて」
「大丈夫だ」
私の精一杯の意地を茶化す訳でも跳ね返す訳でもなく。
耳元で囁かれる言葉の音が、
脳へ、全神経へとじんわり巡っていき……
情緒の乱れも静まっていく。
「お前は力技に頼りきっていて太刀筋がやや荒削りだ。しばらく剣術から遠のいてたんだろ?
本来の勘を取り戻すまでは慎重に掛かれ」
「………」
「あとは俺がなんとかする」
「………。
ご親切な傾向と対策論をどーも。
一応、了解してあげる」
「ふっ。
ーーー行くぞ」
再び刀を構えた私は、伊達と共に敵陣へ攻め込んでいき……
互いを補い合いながら、共に戦った。
血と汗と、舞い散る砂埃、砲撃の硝煙ーーー
生と死の狭間だというのに、
いつの間にか手の震えは止まっていて。
“大丈夫だ”
不思議とその一言は、私から恐怖を取り除き力をもたらしてくれたんだ。
生き抜く力、を。ーーー