第25章 『美学』
草陰や木々の狭間より突如姿を現し、とてつもないスピードで向かってくる馬の大群。
そして、騎乗しているのは……
不気味な黒装束の面々。
軍一同に緊張が走り、武将達はそれぞれ体制を整える為部下へ指示を飛ばす。
「……奇襲か。
付け焼き刃の能無し大将かと思いきや、よくもまぁ大人数集めたもんだ」
「感心してる場合!?
なんなのあいつら……っ」
「光秀の報告にあった通り、金を餌にして抱き込んだ敵方の飼い犬だろう。
ーーー焦っても仕様が無い、気を引き締めて臨め。来るぞ」
ぞろぞろと湧いて出てきたその漆黒の集団は、犬というよりはまるで獲物に群がる毒虫さながらーーー
四方八方から包囲するように、こちらの軍勢目掛けて一気に雪崩込んだ。
混乱に満ちた中、
刀を手に携える装束兵とさっそく対峙するや否や。
伊達の掲げた左腕がしなり、刃と刃が甲高くぶつかる。
「見掛け倒しじゃねぇみたいだな。
面白ぇ。ちったぁ骨のある奴等とみた」
互いに捌き合い、押しては引いての攻防戦。
一筋縄ではいかないようだ。
そうしてる間に第二陣が追随してきて、私もいざ刀を交える事になった。
ーーーが。
「くっ……」
相手から繰り出された攻撃を受け止め、
交差している刀身がギリリと軋む。
真横へ薙ぎ払ってやろうと試みるも、いつもの力技が通用しない。
柄を握る手の平に、汗がじんわり滲んでいくのが分かる。
隙が見つからないーーー
「……っあ……!!」
ーーー刹那。
とうとう押し弾かれてしまい、鋭い斬撃が頬を掠めた。
咄嗟に仰け反ったお陰で深手は負わなかったが、触って見てみると指には薄っすら血がついていて。
ちょっとした小さな切り傷だというのに、確かな痛みが後からやってきた。
競り負けたショックなのか、乱世の洗礼を受けたせいなのか………
こんな情けないこと認めたくはないけれど、
私が今体感しているのは、恐怖だ。