第25章 『美学』
安土にて生活するうちにやっと慣れてきたがそれでも未だにカチンとくる、偉そうな貴様呼ばわり。
血の滴る刀を片手に現れたのはーーー
安定の上から目線男、織田だ。
「なによそれ。
褒め言葉?それとも皮肉?」
「両方だ。
まさか此処まで乗り込んでくるとはな。肝の据わった奴よ」
どこか愉しげな笑みを浮かべたものの、それは一瞬で消え去り。
私の背後へすっと視線をずらす。
射抜くような紅蓮の瞳ーーー
伊達の自分勝手な振る舞いを咎めようとしているのか?
しかし、僅かな沈黙の後。
「退く気は無いのだな」
「勿論」
「貴様の心意気、確と受け取った。
我々が目指すのは、生きて勝利を掴む事ーーーゆめゆめ忘れるな」
「はっ」
一言二言確認だけすると、踵を返して行ってしまい……
拍子抜けした私だったが、迫り来る敵兵を前に呆けている余裕は無く再び戦闘態勢に入った。
きっと織田はこの男の性質や志を理解していて、それらを踏まえたうえで戦いの継続を許可したのだろう。
好きにしろ、だが死ぬ事は許さんーーー
掛けてきた言葉には、そんな意味合いを含んでいるように感じた。
ーーー・・・・・
そうして……
激しい攻防戦も中盤を迎え、
快進撃を続ける織田・上杉武田軍の優勢で展開は進んでいた。
このまま勝利へーーー
そう期待していた矢先。
どこからか、高らかに鳴り渡る指笛。
まるで狼同士が遠吠えで呼応するかのように、あちこちから聞こえてくる。
「な、何……?」
直後、遠くから微かな響きがだんだんと近付いてきた。
これは、蹄が地を駆ける音……
しかも単体ではない、相当な数の。