第25章 『美学』
二人が走り去った後……
尚も攻め込んでくる敵兵達と交戦していた秀吉の元へ、隊の一部を引き連れた家康が加勢にやって来て。
共闘を繰り広げながら、途切れ途切れに言葉を投げ合う。
「ちょっと秀吉さん、何なんですかあれは?
どうして蓮が出てくるの」
「……さぁな。俺にもさっぱりだ」
「正気の沙汰とは思えないよ、あの子。
政宗さんも何を考えてるんだ……まぁ、あの人の無茶っぷりは今に始まった事じゃないけどさ」
襲いかかる勢力を散らしていき、幾分か落ち着いてきたところで荒野の向こうへ視線をやれば。
二人の姿を見失ってしまうほど、敵味方それぞれが激しく入り交じっている前線の様子が目に映る。
「あの子…女といえど弱くはなさそうだしむしろ見るからに強そうだけど……
いくら剣術に心得があろうとも実戦の厳しさは知らないはず。無傷では済まないかもね」
「………」
「前線に居る信長様がどう判断するのか……」
「………」
「秀吉さん?」
「っ、あ…、ああ。
……こうなった以上、信長様の判断に任せるしかない。今俺達は持ち場の役目をきっちり果たす事が最優先だ。抜かるなよ」
心配しているのか目を細めて前方の彼方を一瞥した家康は、短い返事と同時に次なる競り合いの場へと走り出す。
乱れた羽織を整え再び臨戦態勢を構えた秀吉は気持ちを引き締めつつも、頭の片隅でーーー
ある日の“言葉”を思い出していた。