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【イケメン戦国】戦国舞花録

第25章 『美学』



眉間に刻まれた、深い渓谷。
説教をする時はいつもそこに皺が寄る。
けど、ここまで厳しい表情を見たのは初めてかもしれない。
手綱を引き、脚を止め……
進路を塞ぐように立ち塞がる馬上の秀吉を見つめながら、私は静かに刀を鞘へ収めた。


「何をしている、政宗」

「分からないか?見ての通りだ」

「分かる訳がないだろう。
俺を騙してまで戦いに身を投じ、あまつさえ蓮を同乗させ危険に曝すーーーそんなお前の行動心理など甚だ理解し難い。今すぐ引き返せ」

「嫌だと言ったら?」

「勿論、力づくで食い止める」


チャキ、と鍔元で鯉口を切る仕草。
一方の伊達も手中の得物を強く握り締め、実力行使に踏み切る構えだ。
戦場のど真ん中で味方同士ドンパチ起こすなんてデメリットしか生まれない。互いに百も承知だろう。
それでも刀を交えなければ解り合えないというのか。


「……秀吉。
私は同乗“させられた”んじゃない。自らの意志で来たの」

「何……?」

「だから、ここは通してもらう。
ーーーどいて」

「………。
なにやら事情があるのか知らないが、それは断じて許さない」

「どいて」

「これは剣術遊びでもなんでもない。生きるか死ぬかの殺し合いだぞ!
この先へ進めば最後。命の保障なんかどこにもねぇ!!」

「……」

「蓮、お前は無駄死にする為にこの時代へ訪れたのか?違うだろう」


確かに、違う。
こんなところで死ぬなんてまっぴらごめんだ。
戦国時代へやってきた本来の目的は、姉を取り戻して現代へ帰ること。

その独特の声音と、眼差しに捉えられると。
何故だか昂っていた心に迷いが生じ、押し黙ったまま二の足を踏んでいた。

膠着状態が続く、そんな時……

突如そこへ大勢の敵兵が雪崩込み、秀吉率いる陣が乱れ始めた。
我武者羅に得物を振るう兵達の咆哮、馬の嘶きが騒々しく周りを取り巻く。
もはや内輪揉めしている余裕など無い雰囲気だ。

「行くぞ」という伊達の言葉にハッと目を見開いた私は、迷いを断ち切るように五島黒の腹を蹴った。


「ごめん、秀吉」


ーーー今はどうしても、この男を最前線へ導いてやりたいんだ。

混乱に乗じて人の網目を掻い潜り、前へ前へと走り出し………
私の名を叫ぶ秀吉の姿を尻目に、後ろ髪を引かれながらも突き進んでいった。


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