第25章 『美学』
得物同士がかち合い、飛び交う怒号。
未だ闘争が続く戦の現場ーーー
そこへ、ひときわ力強く地を蹴る蹄の音。
兵達の合間を縫うように、猛々しく疾駆する
一頭の黒馬。手綱を握るのは………
「来おったか、手負いの独眼竜め。
ん?連れが居るようだが……」
「誰だ?あの男は……
いや……、
女だ………!!」
男と見紛うほど上背のある体躯。
防具は腹当のみの軽装で、南蛮と思しき奇妙な衣を身に纏い。
鋭い眼光と艷やかな黒髪はまるで、鬣と尾を靡かせる獣の化身の如くーーー
威風堂々、激戦の地を駆け抜ける。
「邪魔だよ、あんた達。道を開けな」
応戦の構えを示す敵兵と対峙した私は。
狙いを定め、潔く刀を振り下ろし……
直後、奴等の叫び声が耳に入るも、振り返らず前へ進んだ。
戦場は、殺るか殺られるかの二者択一。
そんなところへ参戦するなどとイカれた行動をしていても、流石に人を斬り殺す事は出来ず。
相手の手元から武器を弾き飛ばし、隙を作る方法で次々と突破していった。
安心したよ。自分は、まだマトモな精神状態を保っているようだ。
「随分と器用な刀捌きだな。
剣術経験者とは聞いていたが、女にしては出来が良い」
「どーも。
でも言っとくけど私、合戦は初心者だから。
補佐よろしく」
「ははっ、偉そうな初心者だ。
俺がずっと補佐に留まる訳ねぇだろ?いつでも主力になってやるよ」
背後から私の腰に巻き付いているのは、奴の負傷した腕。
手綱をコントロールするよりも断然負担が少なく、最前線へ辿り着くまでの疲労を最小限に食い止められる。
好戦的な男だけに己の技量には絶対的な自信があるようで、利き腕が使えずとも、左手に携えた刀を振るい難無く敵兵を負かしていた。
「しっかし、さっきの物言い……
痺れたなぁ、ありゃ」
「さっきの……?何?
…………
…………
ねぇ、もしや思い出し笑いしてない?」
見当もつかないが、なにやら愉しげに笑う伊達の息遣いを後頭部に感じて。
後で手加減ナシの荒療治をしてやろうと、仕返しを企んでいたーーー時。
行く手にふわりと舞う、緑の羽織。
「ーーーそこまでだ」