第25章 『美学』
ぶつかる視線ーーー
向き合う私達の間に乾いた砂埃が舞う。
険しく吊り上がった青い目から感じるのは、確固たる強い意志。
他人を寄せ付けぬ雰囲気を漂わせる伊達の様子を、周囲の者達は固唾を飲んで見守っていた。
「聞こえねぇのか?
俺は どけ、と言っている」
「………」
「止めようとしても無駄だ。
どうしてもそこをどかねぇってんならーーー」
刹那、
鞘からスラリと抜かれた刀。
流れるような動きで空を切る刀身の先がこちらを捉えた。
一歩踏み出せば私の喉元へ届いてしまうほどの近距離で、美しく研がれた刃の尖端が鋭利に光る。
ハッタリなんかじゃない、本気だ。
昨夜抱いた女であろうと厭わない、………か。信念を突き通す為ならば、容赦無く斬り捨てる。
そうだね。
あんたは、そういう男。
そして私は、“こういう女”
「止める?勘違いしないでよ」
キィン、……と、甲高い接触音が響く。
腰に携えていた護身刀の柄を掴み、抜刀した勢いに任せて伊達の刀を弾き返した私は。
おもむろに、近くで傍観している兵達の方を一瞥した。
「ちょっと、そこのあんた。防具を寄越しな」
その中から適当に選んだ一人を呼び、強制的に剥ぎ取った腹当を自身に装着し始める。
天幕には戦闘不能になった兵達の防具が脱ぎ散らかしてあったし、こいつが予備に困る事は無い。
呆然とする一同を他所に、見様見真似で腹当の紐を結んでいく………
すると、怪訝に眉を顰めた伊達が刀を下ろしたままこちらへ歩み寄ってきた。
「どういうつもりだ」
「見りゃ分かるでしょ。戦う準備してんの」
「………なんだって?」
「援護してやろうと思ってさ。
その怪我じゃ、殺られる前に自滅するに決まってる」
眼帯の横を流れる脂汗。
いくら虚勢を張っていても、傷口はかなり痛むはず。今、伊達を支えているのは気力だけ。
なら、自分は……
自分が出来る事は。
「この片腕、貸してあげる」
刀をすっと水平に掲げて、奴へ切っ先を向けた。
「私があんたを最前線へ連れていく。
文句ある?」
ああ、私は相当イカれてる。
でもーーー
瞳に映し、肌で感じてみたいんだ。この男の生き様ってやつを。