第25章 『美学』
「さて…と。んじゃ、行くとするか」
「……ちょっ……!?
行く って、まさか……」
「決まってんだろ、“仕事”に戻るんだよ。
口やかましい奴も居なくなった事だし」
すぐそこある薄汚れた手拭いを掠め取って顔の汗を拭くと、ぽいっと無造作に放り投げ………
慣れた所作で防具を装着し、よろりと立ち上がった。
秀吉が今ここに居たなら、是が非でも止めに入るはず。それを見越して、わざと大人しい振りをして隙を狙っていたのだろう。
引き止めようと咄嗟に伸ばした私の手は、乱雑に払われてしまった。
「政宗様!?なりませぬ!
その怪我では……」
「心配無用。通せ」
「政宗様……っ!どうかお鎮まりを……!!」
慌てふためく護衛の者達が次々と駆け寄ってきて、行く手を阻もうとする。が、
伊達に力づくで押し弾かれ、なかなか制御しきれずにいた。
騒然とする中、ひたすら前を向き天幕を出て行く広い背中ーーー
あんたをそこまで突き動かすものは何?
誇り?
信念?
命を懸けて貫き通し、
華々しく散れるなら本望ーーー
それがあんたの………戦乱の世を生きる武人の美学って訳?
死んだら何もかもお終いじゃない。
まったく、理解に苦しむね。
でも………
「…………」
今から自分がしようとしている事こそ、理解を得られないだろうーーー
天幕を飛び出した私は。
周囲の制止を振り切り五島黒がいる馬駐めまで歩いていく伊達の後を追いかけ……
奴の真正面に立ちはだかった。
「………
邪魔だ、どけ」