第25章 『美学』
「安土へ帰る際に必要な費用や着替えは大名に預けてあるから心配するな。移動に使う馬も天幕の近くに留めておく。
これだけ揃えておけば、少しは安心だろ?」
「秀吉………」
私達は、危険を承知でこんなところまでついて来た。
万が一争いに巻き込まれて死んでしまったとしても仕方の無い事だと済まされて当然なのに、何から何まで手配してくれていたなんて。
素直に感謝するべきだ、そう思っていると……
明智の妖美な顔が、こちらをぬっと覗く。
「万が一……そんな時こそ俺仕込みの砲術で敵の額をぶち抜けば良い。
ただ逃げるよりも、安心を得られるぞ」
するとそこへ、
すかさず秀吉が割り込んできて。
「いいか蓮、お前は女なんだ。敵が襲ってきても無闇に立ち向かおうとしなくていい。まずは逃げろ!」
身を守る手段としては、どちらも有効だろう。
アドバイスしてくれるのは有り難いが、対立するかのように意見が飛び交い、双方の雲行きがどんどん怪しくなっていき………
再び勃発しそうな喧嘩を防ぐべく、仲裁に入ろうとしていたのだけれど。
直後、召集令を報せに来た家臣によってこの場は沈静化され、やれやれと胸を撫で下ろした。
明智と距離を空け、足早に去っていく後姿ーーー
「秀吉!ありがとね!」
一旦歩みを止め振り向いた秀吉は、小さく頷くと。
新緑色に染められた羽織をふわりと翻し、本陣へ向かっていった。
やがて・・・・・
敵方を迎え、配置につく大勢の両軍。
決戦の火蓋は切って落とされようとしている。