第25章 『美学』
得体の知れない敵方の企み。
だが焦りなどは微塵も感じさせない口調で、むしろ愉しむかのように不敵な笑みを浮かべている。これから戦が始まるというのに、ゆったりとした佇まいで、飄々と………。
よほど自信があるのだろう。
どんな細工を仕掛けられようとも屈する事無く、必ずや織田は勝利を掴むはずだとーーー
「こんなところで何をしている、光秀」
会話を遮る、低い声音。
なにやら険しい顔つきの秀吉がこちらへやって来る。
「やっと偵察から戻ってきたと思いきや、あちこちフラフラしやがって。協議にもろくに参加しないなんてどういう了見だ」
「おや、俺はしっかり参加していたぞ?九兵衛を通じてな。
御館様への調査報告もとっくに済んでいる。万事問題無い」
「抜け抜けと……。
直接顔を出せって言ってんだよ!」
明智にも相応の理由があるんだろうが説明する気は無さそうだし、一方の秀吉は端から喧嘩腰。
これじゃ平和に話し合って解決なんて不可能だ。ましてや相容れない関係性の二人なら尚更。
明智の胸ぐらを掴み上げた秀吉は、今にも殴り掛かりそうな勢いで凄んでいて……
とにかく止めなければと、私が無理矢理間に入った。
「はい、中断!細かい事情はよく分かんないけど喧嘩するなら他所でやって。
ーーーそれに秀吉、あんたこそここへ何しに来たの?わざわざ文句を言う為に明智を追って来た訳?」
「……違う。
これを、お前に渡そうと……」
手渡されたのは、一枚の紙きれ。
広げて見てみると、やけに詳細な地図が描かれてある。
「この戦、信長様ならきっと勝利へ導いてくれる。だが万が一……万が一何かあった時は……
お前は小梅を連れて逃げろ。
昨日世話になった大名の屋敷へ身を寄せるんだ。ここに道順を記しておいた」