第25章 『美学』
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翌日になり、屋敷を後にした一行は滞りなく戦地に到着。
上杉・武田両軍と合流し、戦略についての確認が行われる事になり。
各役職の者から歩兵に至るまで、大勢が休む間もなく粛々と準備を進めている。
私はというと救護用の天幕でせっせと雑用を手伝いながら、緊張感高まる現場の様子を眺めていた。
すると、遠くから騒がしい幼声が聞こえてきて……
視線をやれば、小梅を小脇に抱えてこちらへ歩いてくる明智の姿。
「この座敷童子は所構わず出没するらしい。然るべき場所へ届けに参った」
「えへへ、捕まっちゃったぁ〜」
こちとら雑用に勤しんでいるというのに、どこへ消えたのかと思いきや。
聞けば、武将の面々や重役達が集う天幕の周りを徘徊し徳川を待ち伏せてみたり、上杉陣営へ乱入してみたりと好き勝手にウロついていたようで……
連行されてきた今、反省するどころか鼻歌まじりに私物を漁っている。
出してきたのは、徳川の名が刻まれたド派手な垂れ幕や手製のポンポン……
これか、例の“家康応援グッズ”って。チアガールじゃあるまいし……場違いにも程がある。
やりたい放題なその振る舞いに、呆れて目眩がしそうだ。
「はぁ…。まぁこいつの事は置いといて。
ーーー明智、あんた安土での出陣式の時から姿が見えなかったけどいつ合流したの?」
「つい先程だ。ややしばらく敵方の偵察に励んでいたのでな」
「へぇ、ご苦労様。
あんたに目を付けられたら相手もお手上げって感じだね」
「いや、そうでもないさ。
今回相対する敵方……宗雲側から不審な金が流れているとの情報を得たのだが、そこから先は不明だ。
何者かと何らかの取り引きが行われたのは確実……しかしいくら探ろうとも取り引き相手の実態が掴めん。
彼奴め、随分厄介な犬を飼い馴らしているようだな」