第25章 『美学』
畳へ倒された衝撃で、掌中から煙管筒が離れ……
見上げれば、息が掛かりそうなほどすぐ近くに奴の顔があった。
私の腰から脚にかけてずっしりと体重を乗せ、逃すまいと言わんばかりに覆い被さっている。
「………唐突だね。いつもより荒っぽいし」
「荒いのはお互い様だろ?」
武骨な指が、つぅ…とこちらの頬を撫でる。
反対側の手は下腹部へ伸び、ジーンズのウエスト辺りを這っていた。
私が普段着物だけではなく洋服も兼用しているせいか、脱がし方は慣れたもので………
直接目で確かめなくとも、難無くベルトやボタンを外していく。
「ほんと強引な男……
そんなにしたいんだ」
「最近こっちの方はご無沙汰だったからな」
「ふっ。なるほど、欲求不満って訳」
「不満を解消する暇も無いほど忙しいんだ、戦国武将ってやつは」
「あらら、大変だねぇ。
でも、戦の前は女断ちするもんなんじゃないの?」
「そんな掟、糞真面目に守ってる奴なんか居やしねぇ。
そういうもんはなぁ、破る為にあんだよ」
私の唇へ軽く口付けを落とした伊達は、
悪戯に笑った。
「戦は生きるか死ぬかだ。
無残に散ったとしても後悔は無い。
けど、女も抱けずにあの世へは行けねぇ」
見つめるその目は、笑っているはいるけれど。
確固たる信念で己の道を突き進む、鋼の意志が滲み出ていて。
血で血を洗う乱世に生まれ、家督を継ぎ、国の行く末を左右する戦いに身を投じるーーー表には出さないが、心に抱えている責任と重圧は如何ばかりか。
いつの間にか服は全て剥ぎ取られ、下着だけの姿になっている自分。
抵抗もせず受け入れているのは、
同情なんかじゃない。快楽の為でもない。
ーーーもしかしたら、この男にとってこれが最後になるのかもしれない・・・・・
そう思うと、選ばれた事に誇りを感じるのだ。
「あんたの生き様、私が見届けてあげる」
奴の帯を解きながら
にっと微笑み返すと。
そこへまた、唇が降りてきて………
だんだんと激しさを増していく。
夜が深まると共にーーー。