第25章 『美学』
「お前もちょっと書けよ、ここに」
「は!?なんで私が」
「なんでもいいから、ほら」
談笑中も手紙の続きを書いていた伊達は、本文を仕上げたあと。
紙の余白に追伸を付け足していたのだが、途中手を止め……一体何を言い出すのかと思いきや。
一言書けと勧められ、強引に筆を渡された。
見ず知らずな相手宛の手紙。
奴の理解不能な思いつきによって乱入するはめになった私は、仕様がなく適当に文章を書き始める。
「“はじめまして。
私は蓮という者です。
ではさようなら。”
…………っと」
「ぷ、愛想ねぇな」
「文句ある?」
憎たらしく笑うその顔面に落書きでもしてやろうと企み、筆を掲げると。
拍子に、柔らかい音が畳に弾いた。
転がっているのは煙管筒。
ポケットに差し入れていたが、腕を上げた際に引っ掛かり落下してしまったようだ。
「上等なもん持ってんな。買ったのか?」
「ううん、秀吉から貰った」
「………
へぇ………」
「さっきあいつの部屋で一服してたんだけど、まーた説教されちゃってさ。
信長様への態度が悪い!だの、女が夜更けにふらふらするな!だの。うるさいったらありゃしない」
煩わしいのは相変わらずだが、以前みたいに苛立ちを感じている訳ではない。
尖っていた角が丸くなったように、
不思議と、秀吉とやり取りを楽しんでいる自分がいる。
そして今この男と過ごす時間も、悪くない。
そうーーー
どちらも心地良いのに。
違いは何なんだろう?
「……“秀吉”、ねぇ……」
なんだか妙な疑問が揺らぎ、
拾い上げた煙管筒を握り締めながら首を傾げていると。
その横でぼそりと小さく呟いた伊達は、勢い良く私の身体を後方へ押し倒した。