第25章 『美学』
「え………」
「とんだ人でなしだと思うだろう。
だがな、
相手が親だろうが友であろうが、当主として決断を下さなきゃならねぇ時もある。信念を貫く為に」
「…………」
何気なく問い掛けてみた結果、返ってきたのは想像もしていなかった答え。
口を噤んでいる私を一瞥した伊達は、それっきり多くを語らず茶を啜っていた。
短い言葉だけれどひとつひとつ重みがあって、まだ耳の中で響いている。
“父親の死”を選択しなければならないほど差し迫った何かがあったのだろうか。
私の物差しでは測れない何かがーーー。
これ以上追求はしない。
しない代わりに、自然と動いた私の両腕は……
気付けば、幅の広い肩を後ろから抱き包んでいた。
後頭部の襟足に頬を寄せれば、着物から微かに香が薫る。
「………どうした?」
「……別に……
なんとなく」
なんとなく………
押し殺した感情を秘めた、着物と同じ色のその隻眼が。
とても、切なく見えたから。
なんとなく、触れずにはいられなかったんだ。
「おいおい、強いな力。そのまま首絞めたりするんじゃねぇぞ?」
「んー……どうしよっかな」
「迷うなよ」
暫し無言の状態が続いたが、
空気を明るく変えたかったのか突如あれこれと茶化してきた。
私が便乗してやると、奴も更に仕掛けてくる。
負けじと互いに冗談を言い合っている最中ーーー
こちらを振り向く伊達の眼は先程と違い、三日月みたいに笑っていた。