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【イケメン戦国】戦国舞花録

第25章 『美学』




それからまもなくしてーーー
準備は滞りなく整い。
青空の下、決起した軍一行と共に安土城を出立。

ここから甲斐まではたいぶ遠く、現代だと車で数時間かかる。
それを馬と徒歩で移動するとなると、時間単位ではなく日数を要するのだ。
休憩を挟みながら、野を越え山を越え………
日が傾き始めると野営や寺などで寝泊まりし、早朝にまた出立。
そんなサイクルを繰り返し………
とうとう近隣国に辿り着き、戦いを明日に控えた夜。
織田と友好関係を結んでいるという大名の屋敷を訪れ、一晩明かすことになった。


「入るよ、いい?」


夕餉を済ませ、各々過ごす休息のひとときーーー
早めに就寝する者も居れば、思いに耽る者、明日に向けて入念に武器の手入れをする者も居る。
盆を手にした私は、伊達に割り当てられている部屋を訪れ返事を待っていた。
本人の声を確認した後、すっと静かに襖を引き中を覗いてみれば。
行灯の明かりに浮かぶ、鮮やかな青の着物。
奴はなにやら書き物をしていたらしく、一旦筆を置きこちらを見上げた。


「おう、蓮か」

「お茶淹れてやったよ。どーぞ」

「気が利くな。
てっきり夜這いしにきたのかと」

「ついでだよ、ついで。
丁度私も飲みたかったし。
いくらなんでも戦の前夜に襲ったりしないから安心してよ」

「ははっ。
ま、ここ座れよ」


そばへ来るよう促され、持っていた盆と膝をそこに落ち着かせる。
さっそく茶を啜る伊達につられ、私も自分の湯呑へ手を伸ばした時。
自然と目に入った、机に広げられている書状ーーー
堅苦しくなく、気楽な文章で近況報告が綴られている。親しい誰かへ送る手紙なのだろう。


「字、読めるようになったのか?」

「割とね。
ねぇあんた、もしかして家族に手紙書いてたの?」

「いや、故郷の友へだ」

「ふぅん。
こんな時だし、親にも書いてあげればいいじゃん」

「……そういう間柄じゃねぇんだ」

「仲悪いってこと?」

「母上とは暫く疎遠だ。
父上はもうこの世に居ねぇ。
………俺が殺したからな」



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