第25章 『美学』
やれやれ、と長い溜め息を吐きつつ
何気なく視線を他へやると。
目に入ったのは、暑苦しい男だらけの中に佇む姉ーーー
そして。
その正面に立っている織田の姿だ。
「私、御守作ったんです。これ……身につけてくれますか?」
「断る理由が何処にある?
これを貴様の代わりに、戦場へ連れて行く」
「良かった…受け取ってもらえて嬉しいです。
信長様、どうか御武運を………
絶対に…絶対に生きて帰ってきて下さい」
「ああ、約束しよう。
例え腕や脚を失おうとも、俺は必ずや貴様の元へ帰ると」
切なげな表情で御守を渡す姉………
そっと受け取り、笑みを浮かべる織田………
熱く言葉を交わし、名残惜しむように見つめ合う。
完全に二人だけの世界で、
ますますドラマみたいなワンシーン。
感想?
単刀直入に言い表すとしたら、
『気に食わない』
ーーーものすごく、ね。
「はいはい、ちょっとお邪魔させてもらうよ。盛り上がってるとこ悪いけど」
気が付けば自分の足はそこへ向かっていて、両者を押し退けるように間に割って入った。
姉を背に隠し、織田と向き合う。
「戦場へ行く前に、あんたに言っておきたい事があるの」
「………何だ」
「もし、あんたが戦に負けたなら………
私は姉貴を連れて現代へ帰る。
情けない男のそばに置いておく訳にはいかないからね」
「ほう。して、勝ったとしたら?」
「うーん、そうだなぁ……
勝ったとしたら、一切二人の仲を邪魔しない。
……いや、一切じゃなくて……なるべく。
なるべく邪魔をしない。
けど、少しは邪魔をする」
織田が醸し出す威圧に負けないよう、
胸を張って腕を組み、そう言い放つと。
一拍置いたあと……
奴は、派手に笑い声を上げた。